科学委員会報告書にみる病理AIの課題と展望 ―「1人病理医」を支える技術へ―
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の科学委員会は、「AIを活用したプログラム医療機器に関する報告書」をまとめています。AIを使った医療機器(SaMD)の開発に必要なデータベースの課題を、科学的な見地から整理したものです。報告書は手術画像、内視鏡、心電図と並んで病理画像を取り上げ、病理デジタル画像(WSI:Whole Slide Imaging)をAI開発に活かすうえでの課題と期待を示しています。
本記事では、その病理分野の論点をご紹介します。
1. AIの教師データづくりの難しさ
AIの学習には、画像上の悪性・良性の部分を病理医が印を付けて区別した「アノテーション」が必要です。報告書は、ここに2つの課題を挙げています。病理医の間でも判断が分かれる。 良性から悪性へは連続的に移り変わるため、中間的な病変の判断には病理医の間で差が出ます。そのため、作業前の「目合わせ」が必要です。膨大な時間がかかる。 1枚の画像に平均15〜20分かかります。20万枚なら、100人の病理医が専念しても約2か月半かかる計算です。報告書は、この人の手による作業の効率化を、WSIデータ活用の大きな課題としています。
2. 貴重な病理画像を、患者さんのもとへ
日本医療研究開発機構(AMED)の研究支援のもと、日本病理学会を中心に全国から病理デジタル画像(WSI)が集められ、データベースが整備されてきました。病理医の努力が積み重なった、世界的にも貴重な財産です。現在、その活用は主に研究の場で進められており、今後は診療を支えるAI製品の開発にも広がっていくことが期待されています。
報告書も、個人情報の確認や画像形式の違いから、公開できる画像が一部にとどまっていると指摘しています。個人情報をしっかり守りながら、データをより早く、より広く活かせる仕組みづくりは、社会全体で取り組むべき課題です。学会、医療機関、行政、企業が手を取り合うことで、研究の成果が病理医と患者さんのもとへ届く未来につながると、私たちは考えています。
3. 期待される「病理診断のダブルチェック」
報告書は、病理医が期待するAI支援の一つとして、病理診断の「ダブルチェック」を行うSaMDを挙げています。日本病理学会が、診療報酬改定にあわせて保険収載を要望しているものです。日本では病理医の数が限られており、病理医が常勤で勤務する医療機関でもその約45%が、1人しか病理医が勤務していない「1人病理医療機関」となっています。
こうした施設では、病理医が一人ひとりの患者さんの最終診断に、高い責任感をもって向き合っており、最終診断である病理診断がダブルチェックを受けずに報告されています。その診断をもう一つの目で確かめる仕組みを整え、病理医の負担を少しでも軽くすることは病理学会が長年大切にしてきたテーマであり、AIによるダブルチェックへの期待が高まっている理由でもあります。
報告書は、病理診断の多くを占める消化器内視鏡検体についてダブルチェックを行うSaMDがあれば、精度管理と負担軽減の両面で1人病理医の支援になると期待しています。さらに研究段階の例として、HE染色標本から遺伝子変異を予測するSaMDや、希少がんの類似画像から診断名と必要な追加検査を提案するSaMDの開発にも触れています。
MedBankの取り組み
報告書が示した課題は、私たちが日々向き合っている課題でもあります。MedBankは、順天堂大学病院との共同研究を通じて、病理医の知見に基づく学習データの整備と、病理デジタル画像を対象としたAI支援技術の研究開発を進めています。
・臓器ごとの組織の特徴を踏まえたAIモデルの研究
・染色の色合いやスキャナー機種の違いに配慮した技術開発
・試行錯誤を重ね、AI実用化に向けた開発
1人で診断を担う病理医を技術で支えること。それが私たちの目指す姿です。
出典
独立行政法人医薬品医療機器総合機構 科学委員会「AIを活用したプログラム医療機器に関する報告書」
https://www.pmda.go.jp/files/000263891.pdf
注記
※本記事は上記報告書の内容を当社が要約・紹介したものであり、PMDAおよび科学委員会が当社の製品・技術を評価・推奨したものではありません。
※当社が開発中のプログラムは研究開発段階にあり、医薬品医療機器等法に基づく承認・認証を受けたものではありません。


