医療画像診断にAIを導入することで、診断精度の向上や業務効率化など、多くのメリットが期待できます。ここでは病理画像を例に、病理医と病院の双方にとっての具体的な利点を整理しました。
日本では病理医の数が非常に限られており、全国で約2,400名程度と報告されています。専門医1人あたりの人口10万人に換算すると約1.7名で、全医師数に占める割合はわずか0.8%に過ぎません。このため、必要医師数に対する不足率は約73.5%と推計されており、実質的には約3.7倍の需要に対して供給が足りていない状況です。
地域差も顕著で、都道府県によって人口10万人あたりの病理専門医数には大きな開きがあります。人口の少ない地方や郡部では専門医の確保が特に難しく、がん診療連携拠点病院でも常勤病理専門医が不在の施設が7~21%にのぼるなど、診断体制が十分でない地域が存在します。その結果、多くの施設では病理医が1人しかいない、いわゆるワンオペ体制となっており、診断件数の増加や高度専門症例への対応に支障をきたすことがあります。
こうした状況は、地域医療の均てん化やがん診療の充実を進めるうえで深刻な課題となっており、病理診断を担う人材の供給が追いついていないことが、日本の医療現場全体に影響を与えています。この限られた人員で全国の病理診断需要を支えることは難しく、単純に計算すると年間およそ600万件の病理診断が不足している状況です。
一方で2022年7月に日本病理学会から「病理診断支援AIの手引き」策定され、2024年4月には「医師の働き方改革」が施行され、医師の労働時間の短縮とタスクシェアの推進が厚生労働省から本格的に求められるようになりました。
医療画像診断にAI技術を導入することで、以下のようなメリットが期待できます。
病理医にとって、AIは診断能力を2~3倍に拡張し、1日あたりの診断件数を従来の30枚から60~90枚へと大幅に向上させます。スクリーニング(CADe)や定量分析(CADx)の自動化により、微小病変の見逃しを防ぎ、診断精度の向上にもつながります。これにより、限られた人材でも多くの症例に対応でき、経験の差による診断のばらつきを抑えながら、高度専門領域の複雑症例や希少がんの判断を支援することが可能です。AIは病理医の判断を補助し、自信と安心を提供します。
病院にとっても、AI導入は医療の質向上と収益改善を同時に実現します。同じ人員で診断件数を増やすことで収益向上が見込めるほか、微小病変の検出支援により再発対応コストや訴訟リスクの低減にも寄与します。限られた専門人材を補完することで、病理医不足という構造的課題にも対応でき、診療体制の維持や地域医療への貢献も可能です。さらにペーパーレス化やワークフローの最適化によって診断のリードタイムを短縮し、再現性の高い医療サービスを提供。希少がんや複雑症例への対応力が高まることで、症例獲得や高度診療への参入機会も増えます。大規模データを活用することで、教育・研究価値の向上や創薬連携による新たな収益機会の創出も期待できます。



